[恐竜王国中里]
レプリカ 〜比較標本のできるまで〜

 神流町恐竜センターでは、モンゴルの恐竜特別展に出展した化石の「レプリカ」(複製)をとる活動も行っています。特別展に展示されている恐竜化石はモンゴル国に帰ってしまいますが、中里にはその精巧なレプリカが残ります。
 このレプリカは展示するためだけに作成するのではありません。専門家の恐竜研究に役立つ「比較標本」としての大切な役目があります。
 日本ではまだ専門家の少ないレプリカ製作ですが、恐竜センターの活動が、日本での製作技術向上の一助になれば、と考えています。

研究に使われる比較標本

 恐竜の化石はどれをとっても世界に1つしかないとても貴重なものです。しかし、大事にしまっておくだけでは意味がありません。専門家に研究してもらう必要があります。
 ところが、化石研究には次のような問題があります。

  • オリジナルの化石標本は一つしかないために、一度に多くの研究者がその標本を調べることができない。
  • 化石によっては、非常にもろく、うかつに触ることができないものもある。
 そこで、オリジナルの化石標本と、形や色が瓜二つの標本があれば、それをもとに研究を進めることができます。このような研究に堪えうるレプリカ(複製)を「比較標本」と呼びます。
 比較標本が用意してあれば、次のようなメリットが生まれます。
  • オリジナルの標本でなければ出来ない研究(化石標本の重さを量る、成分を分析する)に、オリジナル標本を使ってもらう機会が増える。
  • オリジナル標本を研究する必要がない間は、適切な環境で大切に保存しておくことができる。
 このように、精巧なレプリカ(比較標本)は化石研究を円滑に進める上で欠かせないものなのです。

専門家を育てる中里の取り組み

 このように重要なレプリカですが、日本の専門家は数えるほどしかいません。それは、これまで日本で恐竜化石がほとんど見つかっていなかったこととも関係しているでしょう。そもそも、レプリカを作るべきオリジナル標本が日本には乏しかったのです。
 そのため、レプリカが必要な時は、そうした技術を持った米国などの外国に頼ることになります。するとお金や手間がかかってしまい、なかなかよいレプリカが作れないのが現状です。
 そこで中里では、モンゴルから恐竜化石をお借りするとともに、専門家を招いて、恐竜の組み立てから、レプリカ制作までを教わっています。実際の作業に携わっているのは造形芸術家などのアーティストたちです。
 こうした活動により、日本でも自前でレプリカが作れるようになれば、国内で発見された数少ない恐竜化石を世界の人に研究してもらう機会も増えていくことでしょう。
 このように中里での活動はささやかですが、恐竜研究の発展に寄与できることを願っています。

レプリカ製作の実際

 比較標本としてのレプリカは、オリジナルの化石の特徴をしっかり写し取ることが重要です。そして、大切な化石を傷つけないように細心の注意を払って作業をしなければなりません。
 なお、神流町恐竜センターでは、夏休みの間、ご自分の手でレプリカを作る「ワークショップ」を開催しています。ぜひ、お越し下さい。

材料

 よく石こうで型を取るといいますが、標本化石を作る場合には、石こうだけではなく、シリコンも使います。シリコンには次のようなメリットがあるからです。

  • 小さな凹凸も逃さずに正確に再現できる。
  • 柔らかいので、複雑な形の標本でも傷つけずに型をとることができる。
 ただし、シリコンだけでは形を支えられないので、シリコンの外側に石こうで補強する型を作ります。

型割り

 「型割り」とは、ひとつのレプリカを作るのに、何個の型を使うかということです。もっとも単純な型は上下2つに分かれた二つ割りの型です。中が空洞になっている頭の部分や、骨盤などは特に複雑な型をしています。このような場合は、4つから7つに分けて型を作ります。深いくぼみができている場合は、そこだけの型を作ります。どのように型を分けるかを決めるには、それなりの経験が必要となります。

手順

 それでは、実際にレプリカを作る手順を、もっとも基本的な二つ割りの例で見てみましょう。

土台を作る
 化石の下側に粘土で土台を作ります。この土台は、上側にシリコンの型をかぶせるためのものです。土台の側の型はあとで取るので、下側にシリコンが回り込まないように、隙間なく土台を作っていきます。
 ここでのポイントは、あとでシリコンの型がはずれるように、化石の側面の一番出っ張っているところに合わせて、土台の上面を作るという点です。従って、土台の上面は平らにはならず、化石の形によって波打ちます。
 この土台作りがうまくいかないと、型が上手に作れず、へたをすると化石から型をはずす時に化石を壊しかねないので細心の注意が必要です。
シリコンを塗る
 型となるシリコンを塗る前に下準備を三つ。まず、これから作る上側の型と、土台を取り外したあとに作る下側の型がずれないようにするために、粘土の土台に印となるくぼみを付けます。化石の周りの土台にポチポチと見えているのが、それです。
 続いて、型の材料となるシリコンを調合します。化石の表面積から必要となるシリコンの量を計算して、器に注ぎます。そこにシリコンが固まるように、硬化剤をスポイトで入れて、よく混ぜます。硬化剤の量はシリコンの1%です。
 最後に、あとで化石からシリコンの型がはずれやすいるように、はく離剤としてカリ石けんを塗ります。
 こうした準備をした上で、型の第1層となるシリコンを筆で塗っていきます。
2層目のシリコンも塗る
 2時間程度するとシリコンの第1層が固まります。その上にもう一度、シリコンを塗ります。その際に、ガーゼを一緒に塗り込んで、シリコンの層を補強します。 また、上からかぶせる石こうがずれないようにするための出っ張りを、シリコンでできた小さな立方体でつけます。シリコンを塗るのに使った筆は、ベンジンでよく洗っておきます。
  石こうの型を作る
 第2層のシリコンも固まったら、その上に石こうをかけてシリコンを支える型を作ります。石こうの型も2回に分けて作り、間に補強材となるスタップ(麻くず)を入れます。石こうが固まるまで15分ほどです。
 これで上側の型ができあがりました。
下側の型も同じように塗る
 続いて下側の型を作ります。まず裏返しにして、土台となっていた粘土をはずします。その後は、上側の型と同じように、1層、2層とシリコンを塗り、石こうをかけていきます。
 すべて、しっかり固まったら、上下の型をはずし化石を取り出します。この作業がもっとも緊張する場面です。脆(もろ)い化石から、型を上手にはずさなくてはなりません。石こうの型をはずしてから、ゴムのようになっているシリコンの型を化石からはがしていきます。そのあと、石こうの型にシリコンの型をはめ込んで、元に戻します。
 これで型を作る作業は終わりました。
ポリエステル樹脂で実体を作る
 型からレプリカを作ります。まずポリエステル樹脂の準備をします。ポリエステル樹脂には、春・秋用、夏用、冬用があります。これは気温に応じた調整がしてあるのです。これを器にあけ、2.5%の硬化剤を入れて、よく混ぜます。
 このポリエステル樹脂を型の内側に筆で塗っていきます。すみずみまで樹脂が行き渡るように細かい部分まで丁寧に作業をします。第1層の樹脂が固まったところで、心材となるグラスファイバーを入れて、樹脂を再び塗ります。
 両方の型に樹脂を塗ったところで、固まってしまう前に型を合わせます。レプリカの中は空いています。それだけの強度がポリエステル樹脂にはあるからです。型がしっかりと合うように、ゴムバンドで留めておきます。ポリエステル樹脂を塗った筆はアセトンで洗っておきます。
型を取り外す
 30分から40分でポリエステル樹脂は固まるので、型を取り外します。これも折角できたレプリカの形を損なわないように、慎重に作業を進めます。これでレプリカの形ができあがりました。
色を塗る
 本物の化石を見ながらレプリカに色をつけていきます。その時に、絵の具が厚くなって細かな形を潰さないように気をつけます。絵の具の厚さ程度の違いであっても、オリジナル標本と違ってしまっては比較標本として意味のないものになってしまうからです。

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Last Update: May. 28, 2007